【専門家が解説】知的障害で障害年金を申請する際のポイント

知的障害とは

知的障害とは、一般に、同年齢の子供と比べて、「認知や言語などにかかわる知的機能」の発達に遅れが認められ、「他人との意思の交換、日常生活や社会生活、安全、仕事、余暇利用などについての適応能力」も不十分であり、特別な支援や配慮が必要な状態とされています。また、その状態は、環境的・社会的条件で変わり得る可能性があると言われています。

知的障害は、精神遅滞とも言われる知的発達の障害です。「精神疾患の診断・統計マニュアル」では、「知的能力障害(知的発達症)」と標記されています。

知的機能や適応機能に基づいて判断されます。重症度により軽度、中等度、重度、最重度に分類されます。様々な中枢神経系疾患が原因となるため、正しい診断を受けて、早期に治療・療育・教育を行う必要があります。本人のみならず、家族への支援も欠かせない発達障害のひとつです。

知的能力障害は、医学領域の精神遅滞と同じものです。
論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学校や経験での学習のように全般的な精神機能の支障による発達障害です。発達期に発症し、概念的、社会的、実用的な領域における知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障害です。

次の3つで定義されます。
①知能検査によって確かめられる知的機能の欠陥
②適応機能の明らかな欠陥
③発達期(おおむね18歳まで)に生じる

中枢神経系の機能に影響を与えるので「疾患群」です。

知的障害が発生する割合は、人口の約1%です。

知的機能は知能検査によって測られます。平均が100、標準偏差15の検査では知能指数(IQ)70未満が1つの知的障害の判断基準です。しかし、知能指数の値だけで知的障害の有無を判断するべきではありません。適応機能を総合的に評価し、判断する必要があります。重い運動障害を伴った重度知的障害を「重症心身障害」ともいいます。

適応機能とは、日常生活でその人に期待される要求に対していかに効率よく適切に対処し、自立しているのかを表す機能のことです。たとえば食事の準備・対人関係・お金の管理などを含むもので、年長となって社会生活を営むために重要な要素となるものです。

 

知的機能の程度

知的機能の程度は、知能指数(IQ)と日常生活の様子から総合的に判断され、1度から4度に区分されます。

1度(重要度) 知能指数(IQ)がおおむね19以下。日常生活全般にわたり常時個別に援助が必要、言葉によるコミュニケーションや身近なことについての理解が難しい、意思表示がごく単なものに限られる、など。
2度(重度) 知能指数(IQ)がおおむね20~34。社会生活に個別の援助が必要、単純な会話はできる、言葉での指示を理解し、2語程度の短い言葉で表現することができる読み書き計算は苦手、など。
3度(中度) 知能指数(IQ)がおおむね35~49。援助を受けながらであれば社会生活が可能、簡単な読み書き計算ができる、実生活の場面ではその能力を活かせません。簡単な日常会話はできる、実生活では声掛けが必要、など。
4度(軽度) 知能指数(IQ)がおおむね50~75。社会生活の簡単な決まりに従って行動できる、新しい事態や時や場所に応じた対応は不十分、日常会話はできるが、抽象的な思考は苦手。複雑な話は理解できない、など。

 

知的障害の診断

症状が重ければ年齢の若いうちから気づかれ、軽いと診断も遅くなります。

診断にあたっては、症状の評価とともに原因疾患の有無を調べる必要があります。原因としては、染色体異常・神経皮膚症候群・先天代謝異常症・胎児期の感染症・中枢神経感染症・脳奇形・てんかんなど発作性疾患があげられます。

お子さんの症状に基づいてどの診察をするかが決定されます。日常の生活の様子や保護者の訴え、本人の診察所見を総合して決まります。粗大運動能力・微細運動(手先の操作性)・社会性・言語の理解や表出の力も、診断に際して大切な情報です。

医学的な診断は上記の基準でなされます。

知的な能力と日常生活における活動能力は必ずしも並行したものではなく、個人ごとに必要な援助は異なるます。必要な援助の様式と強さによって、知的障害を分けます。福祉サービスなどを受けるための制度として、療育手帳があります。

知的障害児・者に対して、一貫した指導・相談等が行われ、各種の援助措置を受けやすくすることを目的に、都道府県・指定都市が交付しています。窓口は市町村、管轄の児童相談所、障害者センター等となり重症度が判定されます。

 

日常生活の適応機能

日常生活の適応機能は3つの領域、すなわち下記の概念的領域、社会的領域、実用的領域の状態で示すことが指示されています。日常生活・学校・職場など多方面における機能状態の困難さ、支援の必要性を評価した上で判断する必要があります。

 

概念的領域 記憶、言語、読字、書字、数学的思考、実用的な知識の習得、問題解決、および新規場面における判断においての能力についての領域
社会的領域 特に他者の思考・感情・および体験を認識すること、共感、対人的コミュニケーション技能、友情関係を築く能力、および社会的な判断についての領域
実用的領域 特にセルフケア、仕事の責任、金銭管理、娯楽、行動の自己管理、および学校と仕事の課題の調整といった実生活での学習および自己管理についての領域

適応行動評価の客観的尺度として日本版Vineland-II適応行動尺度が発行されました。対象年齢は0歳から92歳までで、幅広い年齢層における適応行動を明確に得点化できます。コミュニケーション、日常生活スキル、社会性、運動スキルの4つの適応行動領域に分けて評価します。

 

知的障害の治療

知的障害は、障害そのものを改善させることは難しいです。しかし恵まれた環境下においては適応機能などが向上する可能性は十分あります。早期に発見され適切な療育が施された場合です。本人だけでなく家族への支援も欠かせないです。

 

知的障害の障害年金認定基準

知的障害の認定基準の一例は下記です。ご参考にしてください。認定にあたっては、知能指数だけでなく、日常生活の様々な場面における援助の必要度を勘案し総合的に判断されます。

労働に従事している場合でも、そのことをもって直ちに日常生活能力が向上したと捉えず、仕事の種類、内容、金陵状況、職場で受けている援助の内容、職場での意思疎通の状況などを確認し日常生活能力を判断します。

障害の程度 障害の状態
1級 知的障害があり、食事や身の回りのことを行うのに全面的な援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が不可能か著しく困難であるため、日常生活で常時援助が必要とするもの
2級 知的障害があり、食事や身の回りのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため、日常生活にあたって援助が必要なもの
3級 知的障害があり、労働が著しい制限を受けるもの

簡単に言えば、常に誰かの援助がなければ日常生活がおくれない方が1級、日常生活に支障が出ている方が2級です。

 

精神の障害に係る等級判定ガイドライン

「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」が平成28年9月に発表され、新たに審査の基準となっています。

等級判定ガイドラインによると、診断書の記載事項である「日常生活能力の判定」及び「日常生活能力の程度」に応じて等級の目安が定められています。

日常生活能力の判定

日常生活にどのような支障があるかを7つの場面に分けて評価したものです。

請求者が一人暮らしをした場合、可能かどうかで判断します。

適切な食事 配膳などの準備も含めて適当量をバランスよく摂ることができる
身辺の清潔保持 洗面、洗髪、入浴等の身体の衛生保持や着替え等ができる。また、自室の清掃や片付けができる
金銭管理と買い物 金銭を独力で適切に管理し、やりくりがほぼできる。また、一人で買い物が可能であり、計画的な買い物がほぼできる
通院と服薬 金銭を独力で適切に管理し、やりくりがほぼできる。また、一人で買い物が可能であり、計画的な買い物がほぼできる
他人との意思伝達及び対人関係 他人の話を聞く、自分の意思を相手に伝える、集団的行動が行える
身辺の安全保持及び危機対応 事故等の危険から身を守る能力がある、通常と異なる事態となった時に他人に援助を求めるなどを含めて、適正に対応することができる
社会性 銀行での金銭の出し入れや公共施設等の利用が一人で可能。また、社会生活に必要な手続が行える

4の「通院と服薬」については、知的障害の方は基本的に定期的な通院や服薬が必要な傷病ではありませんので、記入しません。

 

上記、7つの項目を1~4点で分けて評価します。

1点 できる
2点 自発的にできるが時には助言や指導を必要とする
3点 自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできる
4点 助言や指導をしてもできない若しくは行わない

 

日常生活能力の程度

日常生活能力を総合的に評価したものです。

知的障害を認めるが、社会生活は普通にできる。
知的障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、社会生活には、援助が必要である。
知的障害を認め、家庭内の単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である。
知的障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である。
知的障害を認め、身のまわりのこともほとんどできないため、常時の援助が必要である。

 

申請のための5つのポイント

1 初診日証明は不要

知的障害は生来性疾患のため生まれた日が初診日とされています。そのため、他の傷病とは異なり、特に初診日の証明書類を提出しなくても申請ができるのです。

初診日の証明書の代わりに療育手帳の写しを提出すれば、初診日の証明として扱われます。

 

2 20歳になったら申請

知的障害の場合、出生日が初診日のため、20歳から障害年金の申請が可能です。20歳になったら申請をすることをおすすめします。

 

3 仕事をしていても受給の可能性ある

障害年金では単に仕事ができているという事実だけで不支給になることはありません。

等級判定ガイドラインでは次のように書かれています。

(1)『一般企業で就労している場合(障害者雇用制度による就労を含む)でも、仕事の内容が保護的な環境下での専ら単純かつ反復的な業務であれば2級の可能性を検討する。』

(2)『一般企業で就労している場合(障害者雇用制度による就労を含む)でも、他の従業員との意思疎通が困難で、かつ不適切な行動がみられることなどにより、常時の管理・指導が必要な場合は、2級の可能性を検討する。』

 

4 療育手帳の等級やIQとの関係

軽度だからといって受給できないということはありません。等級判定ガイドラインでは療育手帳やIQと障害年金の等級判定について次のように記載されています。

療育手帳

『療育手帳の判定区分が中度以上(知能指数がおおむね50以下)の場合は、1級又は2級の可能性を検討する。それより軽度の判定区分である場合は、不適応行動等により日常生活に著しい制限が認められる場合は、2級の可能性を検討する。』

知能指数(IQ)

『知能指数を考慮する。ただし、知能指数のみに着眼することなく、日常生活の様々な場面における援助の必要度を考慮する。』

障害年金の審査の際に考慮すべき要素として挙げられています。しかし、療育手帳の区分や知能指数によって障害年金の等級が決まりません。療育手帳の区分が軽度であったり、知能指数が50以上であるからといって障害年金の請求をあきらめてはいけません。

 

5 所得制限に要注意

20歳前傷病による障害年金にだけは所得による支給制限があるため注意が必要です。

年間所得 360万4,000未満 360万4,000円以上 462万1,000円以上
障害年金 全額支給 1/2支給 全額支給停止

 

障害年金の申請をお考えの方へ

当事務所では障害年金に関するご相談を受け付けております。

障害年金の申請は複雑なため、ご自身が障害年金の受給可能性があるのか、申請はどうしたらいいのかなど、多くの疑問を抱いている方もいらっしゃると思います。
当事務所は相談料無料ですので、是非お気軽にご相談ください。

 

 

 

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